病院の防犯カメラ設置はプライバシーの侵害になるのか?
病院施設では、不審者の侵入や来院者同士のトラブルなど、さまざまな問題が発生します。そんな中、来院者や患者、医師・看護師の安全を守るための一手段として、防犯カメラや監視カメラを設置している病院も少なくありません。しかし病院の防犯カメラや監視カメラの設置については、プライバシーの侵害につながりかねないという観点もあり、その賛否にしっかりとしたボーダーラインはいまだ設けられていません。
防犯カメラと監視カメラ
病院内は大きく分けて2種類のエリアに分けることができます。1つは施設周辺や出入り口、施設内の食堂・廊下などの不特定多数の人が集まる場所です。もう1つは、診察室や病室などの特定の人しか入れない場所です。
この2つのエリアにカメラを設置する場合、その目的は異なります。不特定多数を対象とするカメラは、いわゆる防犯に重きをおいた防犯カメラとなります。特定の人や場所を対象とするカメラは、見守りや不審者の侵入、窃盗防止を目的とした監視カメラになります。
しかし、いずれの場合も、運用方法によってプライバシーを侵害する恐れがあります。
録画機能の有無について
防犯カメラの台数にかかわらず、録画機能の有無によってもプライバシーの侵害の危険性は大きく異なります。
録画機能がなければ、画像・映像は一過性のものなので、プライバシーの侵害の恐れはほとんどないと言えます。たとえば、施設周辺に設置した複数のカメラの映像を監視員がチェックするような警備方法の場合は問題ありません。ただし録画機能がある場合、時間をさかのぼって再生することが可能となってしまうため、個人の特定や行動パターンなどの監視、個人情報の搾取ができることになります。運用次第によっては、防犯カメラはプライバシーの侵害につながる恐れがあります。
どのようなプライバシーに侵害の恐れがあるか
病院内に設置されたカメラを正しく運用しないと、下記のようなプライバシーが侵害される可能性があります。
肖像権・個人情報
自分が知らない間に撮影されているということは、その画像・映像をいつ誰がどのような目的で利用するかを、本人がコントロールできないということになります。万が一、患者が知らないうちに撮影されていた映像が何かに使用された場合、許可を得ていなければ、それは肖像権の侵害となります。それだけではなく、いつどのような病気で通院していたか、という個人的でデリケートな情報までもが漏えいしてしまう可能性があるのです。
守秘事項
診察の内容や病状によっては、他人に知られたくない内容もあるでしょう。しかし精密なカメラの映像や音声記録が付加されたシステムでは、その内容を第三者に知られてしまう恐れがあります。
移動の自由
自分の行動が監視されていると感じた場合、自由意思による移動を制限することになります。これは患者だけでなく、医師・看護師をはじめとした施設従業員が、勤務中だけではなく休憩中も、移動の自由を制限されてしまうという可能性につながります。
おわりに
カメラによる監視は、どこからがプライバシーの侵害になる、というはっきりとした線引きができません。そのため侵害になる・ならないの判断が非常に難しいのです。また、病院においてプライバシーを侵害されているのは患者だけだと思いがちですが、医師・看護師をはじめとした施設従業員も対象者に含まれています。
防犯カメラをめぐるトラブルを未然に防ぐためには、利用目的をより明確に定義したうえで、施設従業員に対して、防犯カメラシステムの利用方法や運用方法などに関する教育をしっかり行う必要があります。
また、被記録者から画像・映像の開示を求められた場合に、開示できるような仕組み作りをしておくことも大事です。